オアシス - 90点 ◎

炙り出される偏見と差別意識。茫然自失の衝撃作。

世界的に評価された「ペパーミント・キャンディー」のイ・チャンドン監督が、社会から疎外された男女の愛を描く。本作で肉体的・精神的に辛い役を演じたヒロインのムン・ソリは、ベネチア国際映画祭新人俳優賞を獲得し、イ・チャンドンも最優秀監督賞を受賞することになる。

前科三犯の男・ジョンドゥ(ソル・ギョング)は、出所後に謝罪に赴いた被害者の家で、重度脳性麻痺のコンジュ(ムン・ソリ)と出会う。本能に従って愛を求めたジョンドゥをコンジュは受け入れ、2人は秘かに愛を育んでいくが、親兄弟や周りの人間は2人の愛を許さなかった・・・。

”目が見えない”人物や、”口がきけない”人物を描いた物語は日本にもたくさんありますが、今作に登場するヒロイン・コンジュ(ムン・ソリ)は四肢が麻痺しており、一人では外を歩くこともできないという重度の脳性麻痺。そんなコンジュが社会性を欠いた男(説明はされないが明らかに知的障碍者)と出会い、恋に落ちる。

コンジュは、顔や手足が常に強張っているため、言葉が上手く喋れないどころか、表情やジェスチャーもままならない。こちらの投げかけにリアクションは返すが、喜んでいるのか怒っているのか全然わからない。そんな、コミュニケーション能力が極端に低い人間です。しかし、ジョンドゥはそんな彼女を普通の女性の様に扱い、外へ連れ出し、一緒に遊び、そして愛を交わす。

誤解を怖れずに言えば、”普通に生活してきた健常者”であれば、この二人の強烈な恋愛描写にショックを受けない人はいないと思います。何か恐ろしい気分さえしてくる。しかし、この映画は、そういう衝撃をリアリスティックに描くだけという単純なアプローチには留まらず。突如としてファンタジックな手法を用い、観客の誰もが理解できるようなカタチで二人の幸せを表現していきます。それは”コンジュの空想”であると同時に”ジョンドゥから見えているコンジュの姿”として提示され、実は私が隠し持っていた”ある意識”を炙り出します。

そうなんです、私が最初に感じた衝撃の震源地は、簡単に言ってしまえば”偏見や差別”だったんですね。障碍者の人生に対する想像力の欠如。未知なるものが突然眼前に現れる衝撃と恐怖。この脳天を金属バットでガツン!と殴られたようなショックと共に訪れるアウェアネス。これを受け入れ、飲み込めるかどうかがこの映画への評価の分かれ道だと思います。そして受け入れられた観客は次第に感情移入し、二人の幸せを願うような気持ちになっていくのですが・・・。

ということで、ここから先はぜひ実際に観ていただきたいと思います。この難しいテーマを、偽善的な美談や、悪趣味な露悪ではない絶妙のバランスに仕上げたイ・チャンドン監督と、主演の二人にはどんな称賛の言葉を送っても足りません。映画「オアシス」は、そんじょそこらの作品にはない、凄味のある感動を与えてくれる映画です。

「オアシス」
公開:2004年2月7日(土)
監督:イ・チャンドン
脚本:イ・チャンドン
出演:ソル・ギョング、ムン・ソリ、アン・ネサン、リュ・スンファン、ソン・ビョンホ、チュ・グィジョン、ユン・ガヒョン、パク・ミョンシン
上映時間:132分