ICHI - 52点 ◯

もう少し脚本を練っていれば、傑作になっていたハズ。

勝新太郎や、北野たけしが演じてきた「座頭市」を、大胆にも女性という設定に変えてリメイクした意欲作。監督は「ピンポン」の曽利文彦。出演は綾瀬はるか、大沢たかお、中村獅童、竹内力、窪塚洋介ら。ある宿場町に流れ着いた盲目の三味線弾き・市(いち・綾瀬はるか)が、町を仕切る白河組と、一帯を荒らす野党団・万鬼党との抗争に巻き込まれてゆく新感覚時代劇アクション。

生き抜くために心を凍てつかせた孤独な女剣士が、心に傷を負い刀を抜けなくなってしまった若き侍と出会い、共に戦っていくことを通じて生きる希望を見い出してゆく。こんな感動的な物語を、日本が生んだ世界に誇るダークヒーロー「座頭市」で、しかも設定を女に変えてブチかますとは、その心意気や良しじゃないですか。

しかもキャスティングの豪華なこと。主人公・市に綾瀬はるか、剣が抜けない心優しき侍に大沢たかお、宿場を仕切る白河組の組長に柄本明、若頭に窪塚洋介、万鬼党の大将・万鬼に中村獅童、副将に竹内力という、個性溢れる実力派俳優が揃い踏み。

あとはパンチのある脚本と、見栄えの良い映像に仕上げる手腕さえあれば、傑作映画が完成していたハズ。しかし、残念ながらキャスティングから先はイマイチ揮わなかったようです。

*以下、ネタバレ含む

まず、予告映像でも流れるパンチライン、「何斬るかわかんないよ、見えないんだからさ」の使い方がかなりイマイチでしたね。開幕直後のつかみとして冒頭にキメ台詞をカマすというアイデアは良いのですが、それを言い放つ相手が、単なるスケベ野郎では拍子抜けです(ちなみに指を2、3本斬り落とした程度)。こんな中途半端なバイオレンスでキメ台詞を言われてもグッときません。

今作の趣向からすれば、まずは冒頭で「うおおっ!スゲェ!!コレちゃんと座頭市じゃん!!」と思わせるような市の脅威的な抜刀術を披露して、多くの観客が抱くであろうリメイクへの不安を吹き飛ばすべきでした。そう考えると相手はスケベ野郎じゃなくて、普通に盗賊団とかで良かった。で、手や脚、腹なんかをブッた斬るバイオレンスをカマして、例のキメ台詞「何斬るか・・・」がきてたら超燃えたと思います。

そうでなくても、指を”切る”程度のシーンではなくて、人を殺す意味合いの強い”斬る”という漢字を使うに相応しいシーンでカマすのが最低ラインだったのではないでしょうか?

次に気になったのが、市が父の行方を知ってそうな万鬼党のアジトに単身突っ込んで行くシーンです(市は父を探して旅をしている)。話を聞きに行ってるのにいきなり手下をブッた斬っちゃうのはマズイでしょ。そりゃ捕まりますよ。父の行方を知るのが目的なのだから、「戦いにきたんじゃない!話を聞きに来た!」的な戦いへの抵抗描写が必須だったと思います。それでも万鬼党が「関係ねぇ!殺っちまえ!」とかなって戦いに発展するといった手続きを踏むべきでした。

もしくわ、旅の目的を”父の仇討ち”という設定に変えるかですね。最初に村で万鬼と会った時に、父からもらった鈴と同じ音色が万鬼から聴こえて(父を殺した万鬼が戦利品として獲った的に)「お前、その鈴は?」と市が聞いて、「あ~ん?・・・へっへっ知りたきゃアジトに来な」とかって言われる。で、アジトに行ったら「お前アイツの娘か?親子揃って憐れな人生よのぉ~」みたいに言われて市が逆上する、とかの方が良かったと思います。

しかも、こうすれば白河組 vs 万鬼党のバトルに市が参加する理由も生まれるので一石二鳥です。(なんとこの映画ではクライマックスの大合戦に主役が参加しない!)

そうそう、この”最後の戦いに主役が参加しない”という展開も、時代劇アクションを看板にする映画としては問題があります。これは十馬のトラウマ克服話をメインに据えた影響ですが、これだって”万鬼が父の仇”という設定にしていたら両立できたハズです。というか、市がラストバトルに参加すれば十馬のトラウマ話ももっと盛り上げることができたはずです。

十馬は、剣術の練習中に折れた刀の破片で母親の両眼を切り、失明させてしまったという辛い過去を持ち、そのせいで剣が抜けなくなってしまった侍です。いわば自分の罪を購うために死に場所を探しているような男です。そんな男が、目の見えない女を救うために命を賭す。この展開はバッチリなのですが、クライマックスの大決戦に市が参加していないため、十馬の贖罪描写の究極形である”命を犠牲にして市を守る”ができないというエラーが脚本に起こってしまった。

ここで市を戦いに参加させて、満身創痍の市が万鬼に殺されそうになったたところを十馬が「市ぃーっ!」つって体を張って刀を食い止めて、「生きろ!・・・市・・・(ガクッ」って言って死んでたら、私は100%泣いてますね。号泣してると思います。しかも、この究極形をやってくれていたら、ラストシーンの”市の孤独な魂の癒し”描写に説得力が増すので、最高の気分でラストシーンを迎えられたはずです。

盲目のために凄まじく酷いこと(レイプとか)をされた過去を持つ市は、ひたすら他者を恐れていて、”寄らば斬る!”を処世術にして生き伸びてきた女です。しかも「生きてるか死んでるかわからない」なんていう精神的に半死半生の状態だった。そんな人間は生半可な優しさじゃ心を開けません。だからこそ明確な犠牲描写が必要だったと思います。「こんな私のために命を投げ出す人がいるなんて・・・」という驚きと感謝の表現が。

ということで、結論としては残念ながら「愛が見えたら、きっと泣く」というキャッチコピーには惜しくも届かなかった作品だったと評価します。非常にもったいない気持ちでいっぱいです。

しかし!僕はこの映画をオススメしたい。なぜなら・・・

綾瀬はるかちゃんが可愛いから!

以上です(笑)

P.S.
ちなみに、それじゃ”十馬の剣が抜けない”の件(万鬼との戦いでついに抜く!)が盛り下がるじゃん!!と思われる方がいるかと思いますが、そこは最後のバトルの開戦時に「死んでも市だけは守る!」という決意を持って剣が抜けるようになるってのでどうでしょうか?

そうすることによって、剣を抜いた十馬、満身創始の市、若頭の虎次(窪塚洋介)が万鬼党と対峙し睨みあうというオイシイ絵も撮れる。そして市も含めた組んず解れつのファイナルバトル勃発!これはアリですよ。しかも竹内力というボスでもおかしくない副将がいるので、vs十馬はコイツです。どうですかね?

いや待てよ、となるとさらに、「虎次が隠しドスで竹内力を殺す美味しいシーンができねーじゃねーか!」と思われる方がいるかもしれませんね・・・うーん、じゃあしょうがねぇ!ここは万鬼党にNo.3キャラを設けよう!あ、最後にちょっと話変わるんですが、アクションシーンにはもうちょっとキレが欲しかったですね。スローモーション一辺倒じゃ飽きます。

「ICHI」
公開:2008年10月25日
配給:ワーナー・ブラザース映画
監督:曽利文彦
脚本:浅野妙子
出演者 綾瀬はるか、大沢たかお、中村獅童、窪塚洋介、柄本明、竹内力、利重剛、佐田真由美
上映時間:120分
興行収入:4.45億円