八日目の蝉 - 87点 ◯

毒親からの負の連鎖を断ち、未来へと向かう人間を描いた秀作

角田光代原作のベストセラー小説の映画化。監督は「孤高のメス」の成島出。出演は永作博美、井上真央、小池栄子、森口瑤子、田中哲司など実力派俳優たち。

<あらすじ>不倫の末に妊娠が発覚するも、男の甘言に騙され、堕胎し、不妊の身体になってしまった希和子(永作博美)。その後、男の本妻が娘を産んだことを知り、衝動にかられた彼女はその子を誘拐し逃亡してしまう。母として自分を慕う娘を連れ、人里離れた場所で暮らす希和子だったが、居場所を突き止めた警察の手により、その生活は4年で終わりを告げる。そして十数年後、自分の存在に大きな疑問を抱えたまま大人へと成長した娘・恵理菜(井上真央)は、唯一心を許した妻子持ちの男・岸田(劇団ひとり)の子供を妊娠してしまう・・・。

ということで「八日目の蝉」を鑑賞いたしました。公開当初は、「なんか重そうな話だなぁ・・・」という印象があったため観賞の優先順位は低かったのですが、観てみてビックリ、とてもスッキリした気分で劇場を後にすることができる作品でした。なぜスッキリしたかというと理由は単純で、「親から受けたトラウマを克服する話」である今作の物語が最後に辿り着く結論がとても納得的だったからです。

*以下、ネタバレ含む(注:重力ピエロにも言及しています)

今作は、異常な生育環境からトラウマを背負った娘が皮肉にも育ての親と同じ過ちを犯し(=不倫の子を宿し)、その受難にどう立ち向かっていくか?という様を描いているわけですが、ドラマは不倫相手(劇団ひとり)との悶着や、家庭崩壊の元凶である父の不貞への断罪、あまつさえ母親との関係回復にも向かわず、失われた4年間を回想する旅がメイン。その道程で自分へと注がれた偽母からの愛情を思い出し、追体験することによって、歪ながらも親子愛を実感し、身籠った新しい命を愛おしむ心が芽生え、母として立ちあがる力を獲得するという展開をします。

恵理菜が受けたような情緒的虐待を取り扱った書籍、「毒になる親 一生苦しむ子供(スーザン・フォワード著)」によれば、「毒親」の親もまた「毒親」であった可能性が高く、そんな環境で育った子供もまた「毒親」になる(=親にされたことを自分の子供にする)可能性が高いと説いていおり、「あなたがもし毒親の子供なら、その《負の連鎖》をあなたの世代で断ち切ってほしい」と願っていました。

そして著者はトラウマ克服の処方箋として「情緒的虐待をした親を許さなくて良い」と説きます。これは親を許し、融和しようとしても、そもそも毒親は”許される能力”すらない(例えば今作の母親は、いくら恵理菜から歩み寄っても”あて付け”と受け取ってヒステリーを起こす自家中毒状態に陥っている)のだから、一見してトラウマ克服の正攻法にみえる”家族再生”という手段は大いなる幻想である、ということを意味しています。つまり「過去に囚われず未来に向うことこそが正攻法」ということですね。

この処方箋は、「八日目の蝉」で恵理菜が辿り着いた境地とも共鳴しており、トラウマ克服の在り方として非常に納得的です。故に、これから産まれてくる我が子と共に生きる(=未来へ踏み出す)決意をした恵理菜がクライマックスで見せた強さと優しさに満ちた涙顔に、私はとても感動してしまいました。

ちなみに私は、今作を観て映画「重力ピエロ」を思い出しました。「重力ピエロ」は、母親をレイプした犯罪者を実父に持つ男(しかも母親の夫が産むことを許し、実の息子として育てた)が、自己承認の問題をこじらせ、出所してきた実父に私的制裁を下し、決別するというお話で、その血みどろの決着とは裏腹に妙な一件落着感を醸した呑気なエンディングで締め括ってはいましたが、無論その行動は犯罪であり、いづれ破滅を迎えるという意味で、”過去のわだかまりと心中しただけ”という印象の映画でした。

両者共に常軌を逸した文脈を抱え、自己存在に疑問を抱き、生きることが苦痛になっている人間を描いていますが、過去と血みどろの決着を果たした「重力ピエロ」と、過去を振り解いて未来へと進む意思を示した「八日目の蝉」をみるに(長くなってきたのでイロイロすっ飛ばして結論づけると)、私は「八日目の蝉」の方が正しい生き方だと思います。この違いは原作者の性別の違いからくるのかもしれませんね。*ピエロ=男、蝉=女

とかなんとかで、今回はこの作品から受け取ったテーマ(トラウマ克服の物語)に焦点を当てて語ってみましたが、その他にも女優陣の迫真の演技や、様々な時間軸を行き来する劇展開、演出のセンスなど、映画として見心地の良い部分がたくさんある作品ですので、気になった方はぜひご覧ください。

「八日目の蝉」
公開:2011年4月29日
配給:松竹
監督:成島出
製作総指揮:佐藤直樹
脚本:奥寺佐渡子
出演:井上真央、永作博美、小池栄子、劇団ひとり、田中哲司、森口瑤子、市川実和子、風吹ジュン、余貴美子、田中泯
主題歌:中島美嘉
上映時間:147分