ノルウェイの森 - 79点 ◯

愛の帰結はSEXである。そこを誤魔化すとヤバイことになる

<作品紹介>国内小説発行部数歴代No.1。世界中で読み継がれる現代文学の最高峰と謳われる、村上春樹の小説「ノルウェイの森」の実写映画化。監督は「シクロ(1995)」でヴェネツィア国際映画祭のグランプリを受賞したトラン・アン・ユン。主演は実力派俳優の松山ケンイチ、菊地凛子、モデルで演技初挑戦となる水原希子。共演には高良健吾、玉山鉄二、霧島れいか、初音映莉子など。

<あらすじ>
ワタナベ(松山ケンイチ)は親友であるキズキ(高良健吾)を自殺で喪(うしな)い、心の空白を埋められないまま東京での大学生活を始めた。時が止まったかのように虚しい日々を過ごすワタナベは、偶然にもキズキの恋人だった直子(菊地凛子)との再会を果たす。心に同じキズを持つ二人は頻繁に会うようになり、いつしか想いを寄せ合うようになるが、心の病が悪化した直子は、京都の療養所に入院してしまう。直子と会えなくなり、またしても虚無に苛まれるワタナベだったが、そんな彼の前に、直子とは対照的な、瑞々しい生命力に溢れる女の子・緑(水原希子)が現れた・・・。

子供の頃から小説が苦手で、近年話題になった「1Q84」はもちろん、国内小説発行部数No.1という「ノルウェイの森」すら未読。というか村上春樹作品自体、1冊たりとも読んだことがない、村上春樹体験の童貞である私が映画「ノルウェイの森」を観てきました。

いかんせん童貞な私ですから、原作との比較や文学的な何がしを語れるわけもないのですが、いやはや、とても不思議な感覚を味あわせてくれる映画でした。現実的なお話を描いているはずなのに、日常から少しだけズレた、でも何かが決定的に違う異界に迷い込んだような気分になりました。

序盤は、「コレって小説の台詞そのまま言ってるの?」と思われるような、日常会話に似つかわしくない文学的(っていうんですかね?)で異様な台詞まわしが気持ち悪くて「キーッ!!」ってなったのですが。よく観察すると、台詞だけではなくカメラワークや人の動きなんかもすべて異様で気持ち悪く、逆にそれが奇跡的な調和を生んでいるように感じられ、いつの間にかこの異界に馴染んでいきました。

で、その気持ち悪さに馴染んだ(=突き抜けた?)先に見えてくるのは、おそらく誰しもにとって重要な問題である「性」と「生」と「死」。そして「愛」なわけです。

死に向かう直子、生を体現する緑、その間で揺れ動くワタナベ。男女を結ぶ性の営みが炙りだす愛についてのヤバイ何か―。私にはハッキリとわかりましたが、「ノルウェイの森」という映画が描き上げるテーマは「愛の帰結はSEXである」、これですね。(*男女の営みに限定されない広義の意味でのSEX)

”愛”を精神のみに依拠した存在と定義するのではなく、精神と肉体、両方のバランスが整って初めて正常に存在し得るエネルギーのようなモノと捉える。その究極の発露がSEXであり、SEXという捌け口の無い愛はカラダの中で自家中毒を起こす。そこを誤魔化し続けるとヤバイことが起きるんだということ事を説く映画。それが「ノルウェイの森」です(ホントか?w)

*以下、ネタバレ含む

「愛=SEX」、これを絶対の基準と定義して物語を追うと、アソコが濡れない(=男性器を受け入れられない≒相手を愛してあげられない)直子を死に追い詰めたのは紛れもないワタナベですよね。

直子が激しく心象吐露(アタシ濡れないの!)する草原シーンから推察するに、おそらくキズキを自殺に追い込んだのは直子の性不能が原因。「アナタが私を苦しめるのよーーー!!」と発狂する直子を目の当たりにしてもワタナベは、問題の本質を”ややこしい”として突き詰めないまま、無鉄砲に「そんなお前(=SEXできない)を受け入れるから、一緒に生きよう。アパート借りるから」とか言っちゃう。

これが直子を「生か死か?」という二択の岸壁に追い詰める最後通告になってしまった。直子とSEXせずとも、正常に性が働き、東京でその代理満足(永沢との女遊びや緑との関係)を得ていたワタナベに、直子の苦しみは本質的に理解できなかったのでしょう。それがこんな悲劇を生むとは・・・悲しいですね。

この映画は、その静かな作風にもかかわらず、映画「愛のむきだし」で園子温監督がブチカマした「愛=勃起」にも似たインパクトがあります。村上春樹”童貞”たる私の膜を見事にブチ破ってくれました。彼の原作小説を読んでみたくなりました。

私は人が愛の究極系として呼ぶ「無償の愛(=見返りを求めない愛)」の正体は、「それと意識せずとも、物理的、肉体的、精神的にギブ・アンド・テイクが成立している愛の関係」だと思っているので、そのギブ・アンド・テイクのバランスを精神と肉体でとるしかない”持たざるモノ”である若者が、肉体に欠落を抱えたまま愛を追求してしまったが故に起きた悲劇であるこの物語に、非常に納得するものを感じました。

ということで映画「ノルウェイの森」。私的にはとても面白かったわけですが、冒頭にお伝えした通りの気持ち悪さや、扱うテーマに生臭いエグ味があるため、83点という高得点のわりには「この映画は絶対みた方がイイ!」と胸を張って言えない感じではあります。しかし、それらの違和に耐えられる方にとっては興味深い”愛”の示唆を与えてくれる映画になると思いますので、自分が”どういう系”の人間かを確かめる意味でも是非一度ご覧になってはいかがでしょうか。

P.S.
永沢(玉山鉄二)とハツミ(初音映莉子)のサブ・ストーリーも良かったですね。「この世界には俺しかいねぇ!」ぐらいの”俺イズム”を持つ、高尚で下種な生き方をする玉鉄の目の座りっぷりが最高でした(シンバルをジャーン!ってやるトコとかシビれます)。

ノルウェイの森
<キャストティング>
ワタナベ:松山ケンイチ
直子:菊地凛子
小林緑:水原希子
キズキ:高良健吾
永沢:玉山鉄二
レイコ:霧島れいか
突撃隊:柄本時生
ハツミ:初音映莉子

「ノルウェイの森」
公開:2010年12月11日(土)
配給:東宝
監督:トラン・アン・ユン
脚本:トラン・アン・ユン
原作:村上春樹
出演:松山ケンイチ、菊地凛子、水原希子、高良健吾、玉山鉄二、霧島れいか
音楽:ジョニー・グリーンウッド
上映時間:133分