ザ・ウォーカー - 90点 ◎

この映画が描くのは、信念と忍耐を貫いた一人の男の生き様。

<作品紹介>荒廃した近未来を舞台に、この世に一冊だけ残った本を手に、ひたすら西へと旅する男を描くサスペンス・アクション。監督は「フロム・ヘル」のヒューズ兄弟。出演は「クリムゾン・タイド」のデンゼル・ワシントンや、「ダークナイト」のゲイリー・オールドマン。制作には「マトリックス」で知られるジョエル・シルバーが参加。ハルマゲドン後の荒廃した世界を西へと歩き続ける男、”ザ・ウォーカー”。彼の持つ一冊の本を狙う独裁者カーネギー。彼はなぜ西を目指すのか!?目的地は何処なのか?その本には何が書かれているのか!?

いきなりですが、今作でデンゼル・ワシントンが見せてくれるマチェットナイフを使ったバイオレンス・アクションシーンは、2010年公開作品の中でもBEST5に入るデキです。特に近接戦闘に限定すればBEST1に挙げる人がいてもおかしくないほど。それくらい彼の身のこなしは力強く、一切の無駄がなくて美しかった。個人的にはこのアクションシーンだけで入場料金分の元がとれちゃったのですが、今作のキモである”本”の謎を推進力にした脚本はひとクセありますね。そのせいで観る人を選ぶ映画になってしまったと思います。

劇中におけるこの”本”は、物語に推進力を持たせるための典型的なマクガフィンなわけですが、その正体が多くの日本人には馴染みの薄い”アレ”なため、プロパガンダ映画として短絡的に受け取られる可能性をはらむ内容になってしまいました。しかしながらそう受け取るのは拙速です。一体、私は何を言っているのでしょうか?

*以下、ネタバレ含む

感の鋭い方なら、そもそもで一本の映画として物語を駆動するに足る”本”の正体なんてアレしかないじゃん?と思うわけですが、皆さんのご想像通り、主人公が持ってる本の正体は”聖書”なわけです。それをゲイリー・オールドマン扮する悪の独裁者が奪おうと画策する。秩序を失い生存本能剥き出しの暴力に満ちた世界にはソレが必要だ(というのは建前で実は独裁の道具)として。

つまりこの映画は宗教の政治利用から聖書を守る男の戦いを描いており、一見してその二項対立的な善悪の戦いが宗教プロパガンダ臭を放つわけですが、最後まで観るとそうではないことがわかります。

それはザ・ウォーカーが辿り着いた場所と、聖書の扱われ方で示されます。彼が辿り着いた場所は文明再建のためのあらゆる文化財を集積する施設で、最終的に聖書は、あくまでも”人類文明の一部”として本棚に格納されます。聖書を受け取った施設長も「おお、これで人類は救われた!」みたいなことは言わずにむしろ「そうそう聖書が足りなかったんです、ご苦労さま」ぐらいのリアクション。しかし、ザ・ウォーカーは満足して昇天していきます。この聖書の扱われ方(=One of them感)はどういう意味なのか?

そうなんです。この映画はキリスト教礼賛のプロパガンダじゃないんですよね。確かに彼に動機付けを与えたのは神の声なわけですが、この映画が描いているのは、悪と戦うキリスト教徒というよりも、むしろ己の実存的な悩みを乗り越え、信念と忍耐を貫いた一人の男の”生き様”なわけです。自分を信じて、自分の道を切り開け!という熱いメッセージなんです。その意志の力に共鳴できるか否か?そして宗教プロパガンダ臭をスルーできるか?この辺りが今作の評価の分かれ道だと思います。

ちなみに、私のような感じで観ると、宗教の話はむしろ個人の輝きを浮き彫りにして主人公のキャラクターを起たせるための道具として機能してきます。だからこそ私はその生き様を見事に演じきったデンゼル・ワシントンのアクションにヤラれましたし、その薫陶を受け、矜持を得て立ち上がるヒロインの姿に感動してしまいました。

ということで、この映画はなかなかクセのある内容なのですが、ポイントにガッチリハマると胸にガツンとくる作品なので、試しにご覧になってみてはいかがでしょうか。

P.S.
ちなみに私、今作は劇場とBlu-rayで2回観ていますが、アクションの迫力は劇場の足元にも及ばないものの、Blu-rayは画面の美しさがヤバイですね。惚れ惚れしてしまいました。

「ザ・ウォーカー」
公開:2010年6月19日
配給:角川映画/松竹
監督:アルバート・ヒューズ、アレン・ヒューズ
脚本:ゲイリー・ウィッター
出演:デンゼル・ワシントン、ゲイリー・オールドマン
上映時間:118分