リミット - 54点 △

この映画は劇場で観るべき!という完璧な論理があるが・・・

<作品紹介>新鋭のスペイン人監督、ロドリゴ・コルテスによる異色のシチュエーション・スリラー。トラックの運転手としてイラクに出稼ぎに来たアメリカ人のポール(ライアン・レイノルズ)は、貨物の運搬中に何者かに襲われ、木製の棺桶に入れられた上で土中に埋められてしまう。やがて意識を取り戻し、自分の置かれている状況に気づいたポールはパニック状態に陥り、力ずくで脱出を試みるが棺はビクともしない。ひとしきり暴れて冷静さを取り戻したポールは、手元にジッポライター、ペン、酒、そしてバッテリーが半分残った携帯電話があることに気づくが・・・。

映画的な体験という意味で、これほどまでに内容と場が連動している作品も珍しいですね。劇場の座席は狭いですし、すぐ隣に見知らぬ他人がいて気を使います。手や足はコンパクトに畳んでじっとしていなければいけないし、不用意に音を立てはダメ。トイレに行くのも一苦労です。このストレスフルな環境がこの映画の内容にピッタリでして、狭い棺に閉じ込められた主人公へのシンクロ率を高め、その極限状況で味わう苦しみや混乱、憤怒、疑念、悲哀、安堵、絶望への感情移入を促進します。

この映画を涼しい顔して観ていられる人が果たして何人いるでしょうか?「この映画は劇場で観るべき!」とオススメする明確な理由がこの映画にはあります。この映画を自宅(=自分好みに空調を設定し、ソファで脚を伸ばして、いつでも一時停止してトイレに行けるような快適な環境)で観ても面白さ半減なので。今作に興味をもたれた方には、是非とも劇場に足を運んでいただきたい。

ちなみに私は、開幕早々からブチかまされるライアン・レイノルズの鬼気迫る演技にヤラれてしまい、終幕を迎える90分間後にはちょっと具合が悪くなってしまいましたよ。そういう意味では映画に相当没入していたと言えるのですが、多くの観客が期待する「どうやって脱出するのか?」に全く答えなかった点が大きな減点ですね。というか、この映画は脱出劇として失格です。何のカタルシスもありません。

*以下、ネタバレ含む

ネタをばらしますと、今作は「手元にある道具だけでどう脱出するのか!?」という工夫を凝らした脱出劇を全然やってくれません。ジッポライターはただの照明だし、ペンはメモをとるだけ。その道具が本来もっている用途そのままの使い方で、主人公が脱出に向けて起こす行動といえば、携帯電話で電話をかけまくるだけ。この映画に「おおっ!ソレをそう使うのかぁ~!よっしゃ頑張れポール!」みたいな盛り上がりは一切ありませんのでご注意を。

今作で描かれるのは、携帯電話を媒介にした「犯人⇔主人公⇔国家機関」という図式の攻防戦です。しかも犯人が要求する500万ドルを人質であるポール自身が国家機関に電話して「払ってくれ!」とお願いするという可哀想な展開。

しかし、国家は主人公の命よりも国益を優先します。「テロリストとの交渉はしない」、「マスコミに連絡するな」、「必ず助けるから安心しろ」の一点張りで、ポールからすれば血も涙も無い対応をしてきます。そして主人公に「嫁と子供がいるんだ!助けれくれ!」と言われた犯人が返す台詞は、「俺も子供が5人いた・・・しかしもう1人しか生き残ってない」という言葉(なにやら戦争で死んでしまったっぽい)。

つまり今作が描きたいのは、いわゆる脱出劇などではなくて、国家という権力機構が生みだす不条理(国民の財産や命を守るのが国家じゃないのか?)や、戦争の怨念が生んだ不条理(俺はイラク人なんか一人も殺していない一般人なのに!)といった件のようでして。簡単に言うと反戦、反権力ってことなんだと思います。これらのテーマをこういうカタチで組み込んだ映画は初めて見ましたので、そういう意味では新鮮でしたが、残念ながら私はカタルシスの用意されていない不快体験は大嫌いなため、この映画の評価は低いです。この映画最大の褒めポイントである主人公とのシンクロ感が強かった分、「こんだけ我慢したのにコレかよ!?ガックリ・・・」という気分で劇場を後にしました。

とケチをつけつつも、このロドリゴ・コルテス監督がタダモノじゃないことは認めるところ。もし脱出劇的なカタルシスをビシッと決めていてくれたら90点を越える点数をつけている作品だったと思います。もったいないです。というかこの監督さんなら両立できじゃないでしょうか?次回作、期待しております。

P.S.
そういえば犯人は何で生き埋めにしちゃったんですかね?身代金要求が目的なら、生殺与奪の自由を握るためにも、外に出しておいた方が犯人にとって有益だと思います(*現に主人公は自殺しそうになったりする)。この”非合目的”的な行動もイマイチ納得できませんでした。

「リミット」
公開:2010年11月6日(土)
脚本:ギャガ
監督:ロドリゴ・コルテス
脚本:クリス・スパーリング
出演:ライアン・レイノルズ