裁判長!ここは懲役4年でどうすか - 42点 △

疑似体験、コメディ、社会派メッセージ、どれも弱い。

シリーズ累計60万部突破のベストセラー・エッセイの映画化。主演はお笑いコンビ「バナナマン」の設楽統や片瀬那奈ら。監督は「ソフトボーイ」の豊島圭介。三流ライター南波タモツの次なるお仕事は、美人映画プロデューサー須藤光子から依頼された“愛と感動の裁判映画”の脚本の執筆。しかし、取材先の法廷で目にしたのは“愛と感動”どころか下品なワイドショーネタばかり。次第に裁判所にも慣れてきたタモツは、知り合いになった傍聴マニアたちと行動を共にし、脚本そっちのけで傍聴を楽しむようになるが、ある時、法廷で出会った美人検事・マリリンこと長谷部真理検事に「楽しいでしょうね!他人の人生高見の見物して!」とキツイ言葉を浴びせらてしまう。そして、タモツはある決意をする―。

「裁判所」を舞台にした映画ということで、伊丹十三監督作品のような異世界覗き見感や、そこから出発する濃密な人間ドラマを期待して劇場に足を運んだのですが、今作はそういう映画じゃありませんでした。

裁判所のルールやトリビアを紹介する疑似体験映画として、または、そういう場所で起こってしまう笑いをネタにしたコメディ映画として、はたまた国民主権の根本原則を思い起こさせる社会派映画として、などなど、確かに今作はいろいろなアプローチをしてくれますが、その描き込みはどれも深く掘り下げられないので、最終的には毒にも薬にもならず、「ま、フツーに観れたなぁ」ぐらいの印象で、すぐに記憶から消えていく映画になってしまいました。

こういう小規模な作品にはつくり手の想いがビシビシ感じられるような熱さが欲しいところですが、今作からそういった熱はあまり感じられませんでした。設楽統や片瀬那奈の演技が良かっただけに少々もったいない気がします。これからいっぱい文句を言いますが、どうぞ最後までおつきあいください。

*以下、ネタバレ含む

まず、疑似体験やトリビアの側面ですが、ここには「これであなたも明日から傍聴の達人!」ぐらいの情報量が欲しかったです。傍聴初心者のタモツ目線で「服装自由」「立ち見禁止」「撮影・録音・私語厳禁」などの情報を出していくやり方はイイのですが、表面的な部分をちょっと触る程度で終わらせずに、裁判所が全国で何カ所あるのか?年間どのぐらの事件数が扱われているのか?裁判長、検事、弁護士、被告人、書記はどういう役割なのか?などなど、裁判にかかわる根本的なイロイロをもっと掘り下げて描いてほしかったです。 「日本国民必見!」と大仰に謳うのならなおさら。

これは「真面目にやれ」とかそういう意味ではなくて、むしろ冒頭のつかみとしてもっと派手に、もっと充実した内容で一発カマす必要あったのではないか?という意味です。楽しくワクワクさせながら「裁判所ってどういうトコなの?」っていうモヤモヤをブッ飛ばしてほしかったです(例えば、おもいっきり非現実的な演出にふっちゃって、派手なセクシー姉ちゃん化した片瀬那奈が説明してくれるとかw)。

コメディパートも今一つ揮いませんでした。大根狩り現場で起こった殺人事件や、被害者遺族に謝罪する被告人のフザけた服装、万引事件で検事がクソ真面目に読み上げるエロビデオの題名、女子高生がたくさん傍聴する痴漢裁判でハッスルする裁判長といった、”面白い”傍聴シーンを連発して、 そつなく仕上がってはいるような雰囲気はあるのですが、僕の笑いのツボにはハマりませんでした。

おそらく実際の傍聴席でその光景を見たら笑いをこらえるのが大変だと思うのですが、それは”笑っちゃいけない空間”だからこそ笑えるわけで、観客は映画館という笑って良い環境で、さらには面白いものを見るつもりでスクリーンを眺めてるわけですから、もう少しパンチのある笑いが必要だったと思います。

ちなみに片瀬那奈扮する鬼検事・マリリンが痴漢の被告人に「あなた自分が何をしたのかわかってるの!」と怒る姿を見ながら、タモツが自分が怒られている姿を妄想して「あ゙~ん」となるMっ気開花シーンは声を出して笑わせていただきました。というか、そのシーンは最高に面白かったので、いっそのことタモツが傍聴を楽しむスタイルを”妄想”という設定にして、それ関係のネタで笑わせて欲しかったですね。タモツが妄想の中で検事になったり、裁判長になったりしたら面白かったと思います。裁判所で知りあいになる傍聴マニア、”ウオッチメン”のメンバーにはそれぞれ特技があったわけですし、タモツにも何か得意技があった方が劇が盛り上がったはずです。

最後に社会派メッセージ部分ですが、劇中で傍聴マニアの西村さん(螢雪次朗)が語った「傍聴人はただ見てるだけの無意味な存在ではなくて、検事や裁判官を監視することでキチンとした裁判が行われるようにプレッシャーを与える役割を担っている」という話は非常に納得的でしたね。「裁判なんて俺には関係ねー」と思ってる僕のような人間に、国家権力の主権は国民にあるという原則を思い起こさせ、自覚させる効果として有効でした。

ここで「おおっ!そうくるか!いい展開じゃないですか!」と思ったのですが、その後この傍聴人の意義の件を飛躍させ、さも「傍聴人は裁判の行方を左右するような影響を持つ!」みたいな方向に進めてしまったのはちょっとやりすぎだし、あまつさえその一連はマリリンに叱責されたタモツを慰めるための詭弁だったというオチに逃げちゃう顛末にはガッカリしました。結局、国民主権のメッセージも本気じゃなかったんですね。

ということで、まぁ文句をいっぱい言いましたが、編集や音楽、役者の演技など、モロモロそつなく仕上がってはいますので、そこまで悪い映画じゃありません。笑いのツボさえ合えば面白い映画だと思います。

「裁判長!ここは懲役4年でどうすか」
公開:2010年11月6日(土)
監督:豊島圭介
脚本:アサダアツシ
原作:北尾トロ
出演:設楽統、片瀬那奈、螢雪次郎、村上航、尾上寛之、鈴木砂羽、木村了、堀部圭亮、斉藤工、徳永えり、大石吾朗、前田健
上映時間:95分