大日本人 - 30点 △

前代未聞のオチでも、前フリで耐えた退屈の対価がこれでは困る。

<あらすじ>日本国内に出現する謎の巨大生命体「獣(じゅう)」を倒すため、防衛庁の命を受けて戦う「大日本人」こと大佐藤大(だいさとうまさる:松本人志)。大佐藤家は代々「大日本人」となって戦う英雄の血筋であり、大はその6代目だったが、昔の栄光は既に失われており、国民からは疎まれ、妻とは別居の身となっていた。それでも誇りを胸に戦い続ける大だったが、ある日、彼の前に見たこともない強力な獣が現れた。

ということで、ダウンタウン・松本人志の初監督作品「大日本人」を観ました。公開順は逆ですが私は「しんぼる」を先に観ており、松本監督の映画に物語性を期待するとスカされるという免疫が出来ていたようで、「しんぼる」よりも全然観やすかったです。監督のインタビュー記事を読むに「今まで表現してきたお笑いの延長線上」という言葉が印象的ですが、なるほど。確かに松っちゃんの過去作と共鳴するようなシュールな笑いを展開していました。

私は松っちゃんの熱心なフォロワーではありませんが、彼の過去作の中では特に珍奇なグロ系コントを評価している口でして、例えば「ごっつええ感じ」でみせた半漁人がベチョベチョの粘液にまみれた卵を押入れの中で産む「産卵」や、肉が腐ってあばら骨が露出し悪臭を放つ馬が子供たちに説教を垂れる「こうま」。黄色い液体でベトベトした巨大生物の内臓を老夫婦がアパートの2階から放り出す「腸」など、無臭化された日常生活で麻痺した軟い神経に、エグい一発を食らわせてくるような刺激的なコントが好きでした。故にそれらのエッセンスが漂う今作の獣との戦いには、昔見たコントへのノスタルジーを感じつつ、松本人志だからこそのお笑い表現として楽しませて頂きました。

しかし、残念なことに好感を持てたのはそのポイントぐらい。作品の大半を占める大佐藤とインタビュアーの対話が紡ぐドキュメンタリックなストーリーテリング(=悲哀をまとったヒーローの日常生活)は、あてどない上に推進力が弱く退屈で、そこかしこに挿入される細かい笑いも今一つ揮わず、笑撃力が弱い印象。日常との対比でワザとらしく上がるバトルシーンの音量はうるさくてかなわず。終着点が見えないまま彷徨い続けた物語を突然終わらせるオチのハチャメチャなコント展開は過去何度目かの焼き直し感が否めず、それまでの前フリで延々耐え続けた退屈への対価としてはカタルシス不足で、スベっている印象を受けました。

さらに困ったことに「日本に対する思いが詰まっている」と語る監督が作品に込めた社会風刺が落胆した気分に拍車をかけてきます。確かに「日本国民の民度」や「日米関係」などは重要な問題ですが、もう随分前から提起されている(≒単なる問題提起や批判は聞き飽きている)それらの問題に対して、今さら皮肉を言うだけというのは頂けません。大切なのは松本監督なりの処方箋の提示ではないでしょうか?「日本やばくね?」みたいなコトを口にするだけなら中学生にもできること。松本人志のような天才がそこ止まりでは困ります。

故に、敵前逃亡&スーパージャスティス(=アメリカ)依存に終わった大日本人の社会風刺は無価値だと言わざるを得ません。国民から疎まれ、蔑まれようとも。例え赤鬼にボコボコにやられ、一度は惨敗したとしても。再び立ち上がり、己の身体と棍棒一本で敵に向かっていく信念のヒーロー、大日本人。そんな雄姿をなぜ描いてくれなかったのか?残念でなりません。最後のあの場面でスーパージャスティスに頼らず、「ここは俺の生まれ育った国や、だから俺が守らなアカンのや!アンタらは手を出さんでくれ!」と堂々と宣言する大日本人の姿を見せてくれていたら・・・笑えるかどうかはさて置き、一本スジの通った作品になっていたはずです。

ということで「大日本人」は「しんぼる」と同様に松本人志の威光がなければ正気を保てない珍作なわけですが、「生き物と生き物が戦って弱い生き物が死んでいく様を生き物たちに見せるという文化を絶やしてはいけない。」という、冗談なんだか本気なんだか分からない意味深なパンチラインが時折心をくすぐる作品だったりもしますので、一度観賞なさってみてはいかがでしょうか。

「大日本人」
公開:2007年6月2日
配給:松竹
監督:松本人志
脚本:松本人志、高須光聖
出演:松本人志、竹内力、UA、神木隆之介、板尾創路
音楽:テイ・トウワ
上映時間:113