しんぼる - 22点 ✕

後藤、小杉、千原Jr、浜田(敬称略)らの突っ込みがあれば・・・

<作品紹介>ダウンタウン・松本人志の映画監督作品第二弾。企画・監督・出演は松本人志。脚本は高須光聖との共同執筆。メキシコのとある町に住むプロレスラー・エスカルゴマン。今日は自分より若くて強いテキーラ・ジョーとの対戦日。彼の身を案じる妻と、活躍を期待する息子、いつも優しい眼差しを向ける父の前で奇跡が起きようとしていた。一方、水玉模様のパジャマを着た謎の男(松本)が白い壁に囲まれた部屋で目を覚ます。状況を飲み込めず困惑するパジャマ男。部屋に仕掛けられた数々のトラップ。男はそこからの脱出を試みるのだが・・・。

ということで、松本人志監督作品の「しんぼる」を観たわけですが、この奇想天外な作品のテーマは一体何でしょうかね?監督は作品について「テーマは決めてない」、「深く考えてない」、「しいて言えば”なるようになる”」と語っていますが、明らかに神の存在や、人類の進化、生殖と受精、世界全体と一個人の関係、解脱・悟り・涅槃(ねはん)といった、宗教的で哲学的な、深遠っぽい形而上的テーマを内包しています。これは松っちゃんにそういった事柄への興味があるということなのか?私が勝手にそういうテーマを投射してしまっているのか定かではありませんが、いづれにせよ今作は単なるコメディ映画ではないようです。

男が白い部屋で起こすアクションが世界に影響を与えていく。その様子は「世界(≒人生)は君次第でどうにでもなる」というポジティブなメッセージにも受け取れるし、「俺は全てを悟り、神の領域に達した!」という自己陶酔にも受け取れる。その他にも様々な解釈が(混乱を誘う程に)可能なつくりにはなっていますが、いかんせん”なるようになる”という場当たり的なスタンスで作られているため、それらについての咀嚼は甘く、血肉となっていないまま画面に放り出されたような印象で、説得力がありません。

とはいえ、それでも松ちゃんの本懐であるコメディパートが笑えればある意味問題無いわけですが、残念ながら私の感性とは相性がわるかったようです。今作は海外ウケを意識しているとのことで、誤訳の危険性を回避するため、無声映画的なアプローチでわかりやすいお笑を目指したそうなのですが、なんというか、そういう小手先の対応が逆に笑撃力の低下を招いたような印象を受けてしまいました。

まず、その内容が俺の知っている松っちゃんクオリティーからは程遠いです。わかり易いのは結構ですが、繰り出されるギャグが、おならプーを顔に喰らって「クサぁーーいっ!!」とか、醤油なしでお寿司を全部平らげた直後に醤油が出てきて「遅いわっ!!」ってどうなんでしょうか?あまりにもベタすぎてまったく笑えません。しかもフリが妙~に長い。劇中何度も「もうわかったから早く次行って・・・」と心の中で懇願していましたよ。前半のコメディパートはそんな時間が延々と続くため終始スベり倒していました。おそらく松本人志という威光がなければ正気を保てなかったと思います。

百歩譲ってボケはこれでイイとしても、ツッコミの雑さが致命的なのだと思います。これも海外受けを狙って排除したっぽいのですが、ようは”複雑に進化した現代日本水準のツッコミ”が決定的に足りない。もしかすると観客自らがその感性に応じて突っ込みながら楽しむという類の作品なのかもしれませんが、そういう様式は見ず知らずの他人が大勢が集まる映画館での観賞には適さないし、そもそも怠惰な観賞者でいたい身としてそういう趣向は荷が重い。だからやっぱし、フットボールアワー後藤、ブラマヨ小杉、千原ジュニア、もっと言えば浜ちゃん的なキレのある突っ込みでボケを昇華してほしいと思ってしまう。こう言うと「そんなのはTVで見ればよくねーか?」と突っ込まれそうですが、TVバラエティで享受できる程度の面白さにも達していない今作であるからして、こういう不満が出るのはご容赦願いたいところ。

というか、松本監督は今作についてのあるインタビューでTVバラエティの自主規制について言及していましたが、「しんぼる」のお笑い要素ってTV的な自主規制の枠を全然逸脱してないですよね。あえて言うなればちょっとお寿司を粗末にしてるぐらい。せっかく映画というフィールドで勝負するんだから、もっとブッ飛んだ笑いをカマしてほしかった。そういう部分で賛否両論を巻き起こして欲しかったですね。

ということで、たくさんの不満を感じる映画だったわけですが、唯一無二とは言わないまでも珍しい映画であることに間違いありませんので、一度観賞してみてはいかがでしょうか。

P.S.
今作の観賞中「表現」と「表出」の違いについて考えていました。表現とは言動により相手に自分の期待する言動を起こさせる事(=例えば「こうすれば感動するだろう」と計算している状態)であり、表出とはただ単に言動によって感情的カタルシスを得る事(=俺が気持ちよけりゃイイ!という状態)だそうですが、今作の松本人志はどっちつかずの浮ついた演技をしているように見受けられました。その辺もスベった一因だと思います。

「しんぼる」
公開:2009年9月12日
配給:松竹
監督:松本人志
脚本:松本人志、高須光聖
出演:松本人志
上映時間 93分